日本情動学会概要

 近年、いじめ、キレやすい子供や自殺者の増加、残虐性のある少年犯罪、情動障害およびそれに基づく行動障害など「人間らしさ」の喪失が社会問題化している。また、環境ホルモンや周産期障害に伴う脳の発達障害や小児の心理的発達障害(自閉症や学習障害児をはじめとする種々の精神神経疾患)、統合失調症患者の精神・行動の障害、さらには青年・老年期のストレス性神経症やうつ病の増加が社会問題化している。これら情動や行動障害を伴う障害は、人間らしく日常生活を続ける上で重大な支障をきたし、本人にとっても非常に大きな苦痛を伴うだけでなく、深刻な社会問題にもなっている。
 現代社会はこのように益々複雑化してきており、それに伴いヒトの「心」やその核心をなす「情動」に対する関心が急速に高まっている。また、工学分野においても、ロボット工学者らは、自律的に行動する最先端のロボットや脳型コンピュータを設計するためには、情動をプログラムする必要性を指摘している。このように「情動」に関する科学的な解明は、医療現場や医薬学だけでなく、政治・経済、教育、理工学など社会のあらゆる領域から、より専門的で、より複雑化したニーズが生まれ、現代社会の要請であると考えられる。
 近年の技術革新により、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)や陽電子断層撮影法(PET)などの非侵襲的脳機能測定法を用いて、これら情動や心が宿るヒトの脳内を直接見ることができるようになってきた。また、動物を用いた研究では、遺伝子操作により脳のハードウエアを直接変化させることも可能である。このように現代の神経科学の進歩は、人間の複雑な精神機能(情動、感情)のメカニズムを次第に明らかにしつつある。
 日本情動学会は前身として過去5年間日本情動研究会を催してきた。研究会では学問の領域を超えた討論がなされ、一般の方々の参加により直接現場での問題点が浮き彫りになってきた。本学会は研究会での検討をふまえ、生理学、神経科学、心理学、精神医学、工学分野の専門家だけでなく教育や社会学など広く情動に興味を持つ方々と共に研究交流を深め、社会に寄与することを目的とするものである。

日本情動学会 名誉理事長 小野武年
(富山大学医学薬学研究部神経・整復学)
日本情動学会 理事長 本間 生夫
(東京医療有明大学学長 昭和大学名誉教授)