日本情動学会理事長よりのご挨拶

 2006年10月に京都において第一回日本情動研究会が開かれ、人間社会を形成する基本となる情動を様々な視点から研究している人たちが集まりました。近年、少年の犯罪やいじめ、情動障害からくる異常行動などが社会問題となり、毎日のように新聞紙上をにぎわせています。自閉症や学習障害など小児の心理的発達障害が小児期の教育の難しさを表面化し、青年期や老年期においては、ストレス性障害やうつ病の増加が問題視されています。この会を開くきっかけとなったのは、それらに共通するのは人間がもつ情動のかかわりであり、情動の発生・発達のメカニズムを、そして社会とのかかわりを明らかにしていくことが緊急の課題だったからです。
 情動を学問としてみる時、認知機能や言語機能など情動に近い学問領域の研究に比べ、情動の研究はまだまだ十分な成果をあげていません。「喜怒哀楽」の感情に身体的変化を加えたものを情動と定義できます。その情動がいかに生み出され、発達してくるのでしょうか。そして喜び、恐れ、不安など人間に限らず多くの動物が持ち合わせる基本的な快・不快感はいかに作りだされ、その基本感情とともに誇り、優越感、罪悪感など人間が持つ、人間らしさとしての感情が成長とともに作りだされてくるのでしょうか。情動を学問としてみようとするとき、非常に複雑に見えてくるのは、人間らしさが単に個体そのものの発達過程において作られるものではなく、個の集まりである人間社会の中で作られてくるからです。社会の中で生きていくために必要であり、社会という中で形成していかなくてはならない基本的要素であり、さらに、情動は理性によりバランスが保たれていなくてはならないのです。それにより人は社会で付き合う他の人々や事物に適切に反応することが出来るのです。2011年に東北地方を襲った東日本大震災など自然災害では、社会的連帯が被災者を力づけ、互いに助けあい、絆という言葉が注目されました。絆を生み出すのも情動のおかげであり、その情動を作りだすのはその地域で長年培われてきた地域社会文化によるところが大きいと思われます。情動の発達には社会文化の役割が大きいために、情動を学問としてとらえるには既存のそれぞれの領域における学問にとらわれない多くの学問領域の連携が必要です。脳科学、生物学や医学などの自然科学、哲学や心理学などの人文科学、社会学や経済学などの社会科学などあらゆる専門領域にまたがり、さらに、保育・幼稚園や小中学校、高等学校などの教育現場、国や都道府県などの行政の関与も必要となってきます。
 2011年、未曽有の災害が発生した年に日本情動研究会は日本情動学会として新たな歩みを始めました。多くの分野から多くの方々が日本情動学会に参加し、人間らしさの研究、あるいは人間らしさを得るための方略の研究から、こころに迫る情動学を体系化していくことを期待します。
日本情動学会 理事長 本間生夫(東京有明医療大学副学長、昭和大学名誉教授)