こころのカフェテリア

デグーは蛇が嫌いで、南米音楽が好き Vol.6

 デグー(Octodon degus)は南米チリが故郷のモルモットくらいのげっ歯類です。大人しくて噛みつく事もないのでペットとしても人気があります。複雑な社会生活をしていて、昼行性、聴覚閾はほぼ人間と同じくらいです。ネズミの天敵といえばヘビですね。チリには何種類かのヘビがいますが、それらの胃の中からデグーが見つかるので本当に食べられているのです。デグーを2つのiPadがある実験箱に放します(図1)。一方の iPadにはヘビの写真が次々に映されます。もう一方のiPadには、花、マウス、デグーなどの写真が映されます。デグーはヘビが登場するiPad を避けることが分かりました。同じ実験をマウスでやって見るとマウスはヘビの画像を避けません。ヘビはもちろんマウスの天敵ですが、マウスは夜行性で、視覚的にヘビを見つけることはできないので、ヘビの画像を避けることをしないのだと考えられます。


 今度は、同じ実験箱にセンサーとスピーカーを取り付けます。デグーがある場所に行くとセンサーが作動してチリの民族音楽が流されます。別の場所に行くと西洋音楽が流されます。すると、デグーはチリ音楽が流れる場所に長く滞在することがわかりました(右)。しかし、バッハの曲とはストラヴィンスキーの曲の選択では、特にどちらの方に長くいるということはありませんでした(左)。生物が棲む環境は音響的な特性を持っています。さらに伝わりやすい音の種類、風の音、雨の音、鳥や虫の声など様々な音源もあります。民族音楽はそういったものの影響を受けてできています。動物たちの音楽の選好もまたそのような環境の影響を受けていると考えられます。


 私たちには様々な好き嫌いがあります。その中には生まれてから学習するものや文化的なものもありますが、進化の過程で形成されたものもあると考えられます。実験で使ったデグーは実験室生まれなので、ヘビを見たこともなければ、チリの自然環境も知りません。好みは生まれつきと考えられます。さて、私たちがヘビを怖がったり、音楽の好みがあるのはなぜでしょう?


文献
Watanabe,S., Braun,K., Mensch,M., & Scheich,H. 2018 Music preference in degus(Octagon degus): Analysis with Chilean folk music. Animal Behavior and Cognition.5,201-208.
Watanabe,S., Braun,K., Scheich,H. & Shinozuka,K. 2021 Visual snake aversion in Octodon degus and C57BL/6 mice. Animal Cognition
https://doi.org/10.1007/s10071-021-01527-y

(文:渡辺茂 慶應義塾大学 名誉教授)