こころのカフェテリア

AIに任せられない看護とは? Vol.13

 ご存知のように医学も看護学も人(患者さん)が対象ですが、最近、病気の画像診断、治療(手術)などにAI(人工知能)技術が導入されています。一方、医学・看護学の分野では、以前から大学における模擬患者参加型教育の授業や試験が増えており、主に診断、患者さんとのコミュニケーション、看護技術(清拭・足浴・車椅子移乗など)の場面において、多くの模擬患者さん(一般市民や大学教職員など)にリアル患者に近い演技や患者として感じたことを学生へフィードバックすることをお願いしています。これは、患者さんの気持ち(情動)や感覚を大事にする医療者教育の在り方が背景にあるのではないかと思います。

以前、「看護系大学における模擬患者参加型教育」をテーマとした研究を行い、看護学に特化した模擬患者に必要な能力を明らかにしました。実際に模擬患者参加型教育の企画や授業を行っている看護教員と教育を受ける看護学生にインタビューした結果、看護学の授業に参加する模擬患者は、「将来の看護師像を見据えた学習の協力者」であり、特に生活モデル提供者、感覚モデル提供者になることが分かりました。

看護師は、患者さんが病気と上手に付き合いながら、今までと変わりない日常生活を送ることができるように支援する立場にあります。そのため、病気や治療の知識をもつことは当然ですが、一方では患者さんの生活を知り、入院中の支援や退院指導に活かすことも大切です。また、看護技術の提供により、患者さんへの効果、例えば、入浴の代わりに身体を拭いたり、足浴を行うことで、心地よいと感じること(感覚)や喜び・不快(情動)などをリアル患者さんの代わりに模擬患者さんから看護学生へフィードバックしていただくことで、学生の内省と今後のスキルアップにつなげています。

この研究から、看護職は患者さんの情動や感覚から多くの学びを得ることによって、より質の高い看護を目指す動機づけとなり、それが患者さんのためにもなることを改めて知る機会になりました。今後ますますAI技術は進歩し、様々な場で活用されることと思いますが、患者さんの情動や感覚は、直接人と人との関わりの中で生じることで相手に伝わるものであり、AI技術では難しいものと思っています。

三木祐子, 錦織宏, 井上京子, 北村聖, 看護系大学における模擬患者参加型教育 -模擬患者に必要な能力とは?-, 第51回日本医学教育学会大会, 2019.

(文:帝京大学医療技術学部看護学科 准教授 三木 祐子)