こころのカフェテリア

こころがもたらすリハビリテーション Vol.14

 からだの機能に不自由さが生じると、日常生活での機能向上を目指しリハビリテーション医療が行われます。病院で実施される、いわゆる「リハビリ」には、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士をはじめ多くの医療従事者がかかわります。リハビリテーション医療で、これらのセラピストにとって重要なことは何か?と聞かれることがあります。よく言われるのは、「患者さんを正しく評価すること」が一番大事ということです。目の前の患者さんのからだの変化のみならず、患者さんを取り巻く環境や目標を見据え、患者さん自身がどのように思っておられるか、内面も含めて評価することが求められます。患者さんと周りとのかかわりを注意深く眺めていくと、機能向上を左右する「リハビリテーションにおけるこころの動き」を感じる場面に遭遇します。第一に、患者さんがどのように自身に起こった変化を捉え、どのように取り組もうとされているのか、患者さん自身のこころの動きが挙げられます。からだの不自由さがもたらす変化によって、落胆される方もいれば、めげずに頑張ろうとされる患者さんもおられます。リハビリテーションに対する意欲は取り組む姿勢に現れ、治療者との1対1の治療以外で、自主的に取り組むかどうかにかかわってきます。リハビリテーションにかける時間が長ければ長いほど、機能回復効果は得られやすいことが知られていますので、リハビリテーションへの意欲は、その後の日常生活を左右する大事な要素となります。
 「リハビリテーションにおけるこころの動き」の第二として、リハビリテーションを担当するセラピストの取り組み方、親身になって考える優しさや、リハビリテーションにかける情熱がかかわってきます。患者さんにとって、自分のからだのことや気持ちの面を気にかけてくれる第三者の存在は、身近な問題を解決にむけてともに考えてくれるパートナーでもあり、熱心なセラピストは非常に大きな存在となります。また、日々の暮らしをサポートしてくれる看護や介護にかかわる医療従事者、さらには家族からどのような支援が受けられるか、リハビリテーションの目標を共有し、患者さんの機能回復にどれだけ熱心に熱意をもって接してもらえるか、そういった周りのこころの動きも、リハビリテーションに取り組む患者さんにとっては大きい。
 第三として、リハビリテーション治療がもたらす効果について共有する仲間がいて、一喜一憂できる環境での、相互作用によるこころの動きがあります。リハビリテーションの治療によってもたらされる効果は、日々の変化でいうと往々にして微々たるものです。歩行の練習をくり返して、昨日よりすこしだけ歩くのが早くなったとか、手指を動かす練習をして、少しだけ指が開くようになったなど、わずかな変化です。しかしその違いは、介入するセラピストにとっては非常に大きな差であり、その積み重ねで日常生活の機能向上に結び付けようと一喜一憂します。さらに、まわりでサポートしてくれる医療従事者、家族の方もそのわずかな変化に希望を見出し、出来なかったことが少しでも改善したときに一緒になって喜んでくださいます。そのような共感するこころが相乗効果となって、患者さん自身のこころにも響き、日々のリハビリテーションにのぞむ意欲につながっていきます。患者さんが、自分はひとりじゃない、日々のリハビリテーションにこれだけ多くの方がかかわってくれているということを実感すると、さらに生きる活力が湧いてくることをよく目にします。他者との社会的な繋がりを感じることで、日常生活の復帰にむけた実用的なリハビリテーションが可能となるのです。

  (文:浦川 将 広島大学医系科学研究科理学療法学専攻 教授)