こころのカフェテリア

不安に立ち向かう呼吸 Vol.1

不安や心配はだれでも経験する感情です。幸せや喜びなどの感情と異なり、不安などいわゆるネガティブな感情は悪いものととらえがちですが、そうとも言えません。不安は「老後の生活不安があるから貯金しておこう」、「入試に受からないかもしれない不安があるから激しく勉強しよう」とするきっかけにもなります。そして不安を感じない人は危険なことに突き進んでしまい、命を落とすことにもつながりかねません。不安を感じることは普通のことであり、生活するうえで、必要なことなのです。ただ、ここからが問題です。不安が強すぎたり、長く続いたりしてしまうと息苦しさ、過呼吸、動悸や睡眠障害などが起こり、自律神経が失調し、ホルモンバランスも崩れ、様々な身体症状が現れてきます。気力が失せ、何も手につかなくなってしまい、前向きな行動がとれなくなります。現実に国民の少なくとも10%は不安障害に悩まされています。現在のコロナ禍で、その数は増え続けていることでしょう。普段不安に対処する方法があれば、そのスキルを身に付けておくことが大切です。そこで、最も身近、というより本人自身が持っている呼吸を利用することをお勧めします。

(呼吸)

 一般的に、呼吸とは空気中の酸素を体内に取り入れ、不用となった二酸化炭素を空気中に吐き出す機能であり、生きるために必要なものと考えられています。しかし、呼吸の役割はそれだけではないのです。呼吸運動は、吸って、吐いて、の繰り返し運動ですが、換気量は一回の呼吸の深さと呼吸のリズムで決まります。呼吸リズムは一分間の呼吸数で表され、成人の覚醒時安静呼吸で約15回/分です。しかし、中には18回/分の人もいれば12回/分の人もいます。それぞれ一回換気量の深さも変わってくるので換気量に違いはありません。この安静時の呼吸数は不安と関係し、不安傾向の高い人は呼吸数が多く、不安傾向が低い人は呼吸数が少ないのです。覚醒時の呼吸リズムは酸素や二酸化炭素を調節している脳とは別の脳で作られており、それは、感情の変化を作り出している脳の基本リズムとなっています。感情が変われば呼吸リズムが変わり、逆に呼吸リズムが変われば感情も変わってくるのです。

(呼吸法)

呼吸リズムを変えることで感情を和らげる方法を呼吸法と呼んでいます。ここで紹介する「呼吸筋ストレッチ体操」は慢性閉そく性肺疾患(COPD)や気管支喘息患者さんの息苦しさを和らげるために開発されました。さらに、この体操は残気量を減少させ肺機能の改善にも有効であることが分かってきました。このストレッチは単に呼吸筋をストレッチするのではなく、筋肉をストレッチした状態で収縮させることでストレッチ効果をさらに高めることができます。このストレッチは呼吸筋の中にある感覚器にも効果を及ぼし、不快そして苦痛を和らげ、心理的ストレスの軽減にも役立つのです。

 東日本大震災から10年になりますが、当時、被災地の小学生の不安軽減、こころのケアのために「呼吸筋ストレッチ体操」を取り入れ、良い効果を上げました。この体操は「ラッタッタ呼吸体操」という歌にもなり、現在NPO「安らぎ呼吸プロジェクト」が普及に努めています。
 昨年から義務教育は新学習指導要領のもと、新しい教科書が作られ、新しい教育が始まっていますが、保健体育の教科書の中にも心を癒す呼吸法として「ラッタッタ呼吸体操」が紹介されています。また、環境省の環境保全協会から「呼吸筋ストレッチ体操」の動画が配信されました。以下にそのサイトを上げておきます。


 呼吸法には古くから瞑想やヨガ呼吸法があります。そして最近では瞑想から派生したマインドフルネスもあります。それらはすべて不安が軽減されるように、ゆっくり呼吸するように指導されています。 ご活用ください。



呼吸を整え不安を吐き出し、爽やかなに日々を送りましょう!

(文:本間生夫 昭和大学名誉教授)